三重大学の研究チームが2025年2月19日に「ダウン症」の原因染色体の除去する技術を確立したと発表しました。
これにより、将来には生む・生まない問題から”治療する”という選択肢が与えられ出生率向上につながると期待されます。
この技術はどのような技術なのでしょうか?
実はノーベル賞受賞した技術がふんだんに使われている技術なのです!
ダウン症の原因
ダウン症候群(21トミソリー)とは、通常は2本で1対となっている21番目の染色体が、1本多くなり3本(トリソミー)になることによって起こる先天性の疾患です。
ダウン症候群には3つのタイプ(標準型・転座型・モザイク型)があり、上記で説明したものが95%を閉める標準型で、今回は標準型に焦点を当てた内容になります。

左が正常のヒトDNAで、右に示すのがダウン症候群のヒトDNAです。
21番目の染色体を見ると、正常ヒトでは2対ですが、ダウン症候群では3本になっています。
ダウン症の特徴
- 知的発達の遅れ
- 特徴的な顔立ち(目がつり上がっている、鼻が低いなど)
- 筋力の低下
- 心臓疾患などの合併症
そもそも染色体とは、ATGCからなる核酸がヒストン8量体に巻きついて、それが集まりクロマチンを形成して…….
一般の方は着いて来れなくなってしまいますね!簡単に言い過ぎるとDNAが集まったものです。
そのDNAは体の機能を司るタンパク質を作るための設計図となっています。
ダウン症候群により、遺伝子量が増加すると、その遺伝子が作るタンパク質の量も増えます。
タンパク質の過剰な生産は、細胞の機能や発達に影響を与え、様々な症状を引き起こすと考えられています。
ダウン症の原因染色体を削除
三重大学の研究チームにより、21番目染色体の増えてしまった1本を特異的に削除する技術を確立したと発表されました。
ダウン症候群(以下、ダウン症)の人の細胞から過剰な21番染色体を除去する画期的な手法を開発しました。ゲノム編集技術 CRISPR-Cas9を用いて、3本ある21番染色体のうち特定の1本を狙い撃ちし、最大37.5%の頻度で過剰な染色体を除去することに成功しました。さらに、染色体が正常化された細胞では、遺伝子発現パターンなどの特性も正常に戻ることを確認しました。
プレスリリースより引用
このCRISPR-Cas9(一般的に”クリスパーキャスナイン”と呼んでいます)は2020年のノーベル化学賞を受賞した技術ですね!
そこに2012年ノーベル生理・医学症を受賞した技術であるiPS細胞も利用したものになっています!
ダウン症者の皮膚から細胞を採取して、その細胞から様々な体の細胞に化ける事ができるiPS細胞を作成します。
そして、このiPS細胞にCRISPR Cas9の技術を使って、21番染色体の余剰分のみを正確に削除することにより正常な細胞に戻します。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは:体の様々な組織や細胞に分化できる能力(多能性)を持つ幹細胞。
CRISPR Cas9(クリスパー・キャスナイン)とは:特定のDNA配列を正確に切断・修復できる、画期的な遺伝子編集技術。
CRISPR-Cas9の原理
1. CRISPR-Cas9 システムの構成要素
CRISPR-Cas9 システムは、以下の2つの主要な要素で構成されています。
- ガイドRNA (gRNA):標的とするDNA配列を認識し、Cas9 酵素をその場所に誘導する役割を果たします。gRNA は、標的DNA配列と相補的な配列を持つ約20塩基のRNA部分と、Cas9 酵素と結合するための構造を持つRNA部分から構成されています。
- Cas9 酵素:DNAを切断する役割を持つ酵素です。Cas9 は、gRNA に誘導されて標的DNA配列に結合し、二本鎖DNAを切断します。
2. CRISPR-Cas9 システムの作用機序
CRISPR-Cas9 システムは、以下のステップで作用します。
- 標的DNAの選択: 研究者は、編集したいDNA配列 (標的配列) に対応する配列を持つ gRNA を設計します。
- gRNA と Cas9 の複合体形成: 設計した gRNA と Cas9 酵素を細胞内に導入し、複合体を形成させます。
- 標的DNAへの結合: gRNA の相補的な配列が標的DNAに結合することで、Cas9 酵素が標的DNAに誘導されます。
- DNAの切断: Cas9 酵素は、標的DNAの二本鎖を切断します。
- DNA修復: 細胞は、切断されたDNAを修復しようとします。この修復過程には、以下の2つの経路があります。
- 非相同末端結合 (NHEJ):DNAの切断末端を直接つなぎ合わせる修復経路です。NHEJ は、修復の際に小さな欠失や挿入が起こりやすく、遺伝子を不活性化 (ノックアウト) することができます。
- 相同組換え (HR):相同なDNA配列 (テンプレートDNA) を用いてDNAを修復する経路です。HR を利用すると、テンプレートDNAの配列を標的DNAに組み込むことができます (ノックイン)。
iPS細胞の原理
1. iPS細胞の作製原理
iPS細胞の作製には、以下のステップが含まれます。
- 体細胞の採取: 皮膚、血液などの体細胞を採取します。
- 初期化遺伝子の導入: Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4 などの特定の遺伝子 (初期化遺伝子) をウイルスベクターなどを用いて体細胞に導入します。これらの遺伝子は、細胞の運命を決定する様々な遺伝子の発現を制御する転写因子として働きます。
- 細胞の培養: 初期化遺伝子が導入された細胞を特殊な培地で培養します。
- iPS細胞の選別: iPS細胞は、ES細胞 (胚性幹細胞) と同様の性質を持つため、ES細胞マーカーの発現などを指標に選別されます。
2. iPS細胞の多能性
iPS細胞は、以下の2つの能力を持つことから、多能性幹細胞と呼ばれます。
- 自己複製能: iPS細胞は、自分自身と全く同じ細胞を無限に増殖することができます。
- 分化多能性: iPS細胞は、体の様々な組織や臓器を構成する細胞 (神経細胞、筋肉細胞、肝臓細胞など) に分化することができます。
しかし、ただ余剰分の染色体が削除されたからといって、普通の細胞にきちんと戻るのでしょうか?
この疑問についても研究は進んでおり、遺伝子発現パターン、細胞増殖速度、活性酸素処理能などの機能は正常な細胞と同等であったようです。
今後の展望は?
この技術により、ダウン症の本質的な原因であり染色体異常を治療する画期的な治療法が生まれる可能性があります!
将来的には胎児の段階で21番染色体の余剰分を削除することにより、出生後に発症するダウン症の障害を抑える事を目指して研究を進めるていようです。
基礎研究の大事さに気付かされる良い成果ではないでしょうか?
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